熊本大学 生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究部門
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生殖工学技術

概要と解説

 生殖工学技術は、遺伝子改変(トランスジェニック(Tg)およびノックアウト(KO))マウス作製の急激な増加に伴って、 マウスを扱う研究者や技術者にとっては必要不可欠なものとなっている。 以下に当研究室において行っている主な生殖工学技術について簡単に解説する。なお、方法については、実験マニュアルを参照して下さい。

体外受精・胚移植について

透明帯部分切開について

胚・精子の凍結保存について


体外受精・胚移植

 文字通り、精子と卵子を体外に取り出して受精を行い、その受精卵(胚)を仮親に移植して産仔を作出する技術であり、 マウスにおいては、ほぼ確立した技術として様々な応用がなされている。

[利用効果]
・一度に大量の受精卵および産仔を作出することができる。
・筋ジストロフィーマウスなど、通常の交配では繁殖できない系統維持に応用可能である。
・病原微生物汚染コロニーを容易にクリーニングすることができる。
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透明帯部分切開

 未受精卵の透明帯の一部を切開して、精子が卵子内に進入するのを助けることにより、受精率を高める技術である。

[利用効果]
・C57BL/6の凍結精子など、運動性が低く、高い体外受精率が得られない精子に応用可能である。
・通常の体外受精では、受精しない系統に応用可能である。
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胚・精子の凍結保存

 マウス胚(卵子)および精子の凍結保存においては、現在、極めて簡易な方法が開発されており、 単に系統保存という観点からばかりでなく、様々なケースに応用されている。

胚の簡易ガラス化保存
 胚や卵子は通常の培養細胞や赤血球に比べ、かなり大きな細胞であることから、一定の表面積あたりに対する体積の割合が大きく、 急速に凍結すると、完全に細胞内の自由水が脱水されないまま凍結されてしまい、細胞内に残った自由水が氷晶を形成して細胞が死滅してしまう。 それを防ぐため、胚の凍結保存においては、0.3-0.5℃/分というきわめて緩慢な速度で長時間かけて冷却する方法が取られてきたため、 操作自体が煩雑で、長時間を要することがこの方法の最大の欠点であった。 そこで現在では、ガラス化という極めてユニークな発想の下に、簡易な保存法が開発され、普及しつつある。 すなわち、噴火により地核から溶けたマグマが地上に噴出して、急激に冷却されると、 その中のケイ酸塩は凝固点を一瞬の内に通過してしまうため、規則正しい分子構造を取ることができず、 無構造のまま固化してしまう(ガラス化)。この原理を応用し、高濃度の保存液に胚を入れ、 細胞内外をガラス化させて氷晶を形成させることなく、胚を低温保存する方法である。
 この方法は従来の緩慢法に比べ、短時間かつ簡単に胚を凍結することが可能であり、 しかもプログラムフリーザー等の高価な機器を必要としないことから、 今後、マウス胚の凍結保存法として広く繁用されるものと思われる。

精子の凍結保存
 精子の凍結保存は、特に、TgマウスやKOマウスの系統保存に応用されつつある。 Tgマウスは導入された遺伝子が、KOマウスにおいては構造の一部が破壊された”その遺伝子”が次世代に伝達されればよいことから、 それらマウスの系統維持は、必ずしも胚の凍結保存で行う必要性はなく、精子の凍結保存で十分である。 精子は1個体から採取できる数が胚に比べてきわめて多く、成熟雄であれば、いつでも直ちに精巣上体尾部精子を採取して 凍結可能であることから、これら動物の系統保存として、精子の凍結保存が、現在、世界的に応用されている。
 従来、精子の凍結保存には、細胞内透過性の凍結保護物質であるグリセリンやDMSOが一般に用いられているのに対し、 マウス精子の凍結保存には、細胞内非透過性の3糖類のラフィノースとスキムミルクを保護物質として用いられている。 そのはっきりした凍害防止作用機序は不明であるが、これら保護物質は細胞内に作用するのではなく、 細胞膜に直接あるいは間接的に作用して細胞膜を安定化するのではないかと考えられている。

[利用効果]
胚・精子の凍結保存の利用効果としては、以下の様なことが上げられる。
・動物を飼育管理する必要がない。
・飼育スペースを大幅に軽減できる。
・維持経費が個体に比べ、凍結胚の場合は1/10、凍結精子の場合は1/30以下に抑えることが可能である。
・突然変異などが起こらない。
・火災や地震などの天災の被害が少ない。
・病原微生物などに感染する恐れがない。

なお、単に保存という観点からのみならず、
・精子および未受精卵を別々に凍結しておけば、凍結精子と凍結卵子を同時に融解して体外受精・胚移植を行うことにより、思いのままのF1マウスが直ちに作製可能である。
・凍結前核期受精卵、8細胞および胚盤胞を用いることで、極めて効率的にTgおよびKOマウスを作出できるなど、様々なケースに応用可能である。  
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