資源開発分野

マウスバンク

生殖工学技術研修会

IRDA

熊本大学

経卵管壁卵管内胚移植



通常、卵管へは、前核期受精卵あるいは2細胞期胚を移植する。但し、それ以外の発生段階にある胚の移植も可能である。

材料

  1. ハサミ 毛刈り用(夏目製作所 反剪刀 Cat.No.B-2)
  2. ハサミ 解剖用(夏目製作所 小直剪刀 Cat.No.B-12)
  3. ピンセット 解剖用(夏目製作所 尖鋭ピンセット Cat.No.A-45)
  4. クレンメ(夏目製作所 動脈クレンメ 極小 直型 30mm 溝付 Cat.No.C-17-30-2)
  5. マイクロピンセット 卵管操作用(豊原医科器械 TEL 03-3811-6752 特注品)
  6. ノエス剪刀  卵管切開用(森田製作所 TEL 03-3811-9730 特注品)
  7. 胚操作用キャピラリーと胚移植用キャピラリー
  8. イエローチップ(ビーエム機器 Cat.No.110-96R)
  9. オートピペッター(GILSON PIPETMAN P-200)
  10. オートクリップアプライヤー(日本ベクトン・ディッキンソン Cat.No.427630)
  11. オートクリップ(日本ベクトン・ディッキンソン Cat.No.427631)
  12. KSOM/AA
  13. 麻酔薬
  14. ヒーター
  15. CO2インキュベーター(37°C 5% CO2 95% air)


方法

受容雌の作製

1 受容雌には、ICR系マウスを用い、移植前日の午後3~5時に外陰部を観察して発情前期にあるものを選び(発情前期にあるものは、外陰部が赤く腫脹している)、 精管結紮雄と同居させる。


2 翌日、膣栓を確認したものを受容雌として用いる(偽妊娠第1日目)。






卵管の露出

術前に、全ての解剖器具をアルコール消毒する。

1 麻酔した受容雌の背側左右中央の毛を刈り、片側の皮膚および腹壁を1cm程度切開する。
2 切開部より腹腔内をのぞき、卵巣を取り巻く脂肪をピンセットでつまみ、卵巣、卵管および子宮の一部を体外に露出させ、卵巣に付着した脂肪をクレンメで固定する。
* 内臓を傷つける恐れがあるので、卵巣を取り巻く白い脂肪を見つけるまでは、むやみにピンセットで腹腔内の臓器を摘まない。
** なお、卵管膨大部が膨れていない個体への胚移植は、なるべく避ける。卵管膨大部が膨れていない個体は、排卵していない(もしくは、排卵数が少ない)場合がある。排卵しないと卵巣に黄体が形成されず、妊娠が維持できない可能性がある。


[クレンメで固定された脂肪と卵巣、卵管および子宮の一部]





卵管の位置決め

胚移植を模式的に図示すると、下図のようになる。すなわち、膨大部と卵管采の間の卵管を切開し、そこからキャピラリーを卵管膨大部に向かって挿入し、胚の移植を行う。


しかし、実際のマウスの卵管は、ランダムなコイル状様構造になっており、例えば、露出させた卵管が下図Aのようになっている場合、キャピラリーを上から卵管へ挿入しなければならず、操作が大変難しくなる。
そこで、キャピラリーを挿入しやすくするため、クレンメやマウスの位置(向き)をかえることで、卵管のポジショニングを行う必要がある(下図B)。


1 露出させた卵管を実体顕微鏡でよく観察し、脂肪塊を固定したクレンメの位置を変えたりノエス剪刀の先端で卵管をさぐるなどして、卵管采と卵管膨大部の位置をチェックする。
2 クレンメの位置やマウスの向きを変えて、卵管の切開とキャピラリーの挿入がしやすいように、卵管のポジショニングを行う。
*卵管のカーブはマウスごとに異なるため、クレンメとマウスを動かして、胚移植操作が行いやすい卵管の位置決めをしっかりと行う。
**左利きの場合は、左手で操作しやすいように卵管の位置決めを行う。
(詳細は、動画を参照)




移植胚の準備

1 オートピペッター(P-200)を用いて、100~200µLのKSOM/AAのドロップ(移植用ドロップ)をディッシュの中央に作製する(流動パラフィンで被覆しない)。
2 移植する胚(20個/匹)を移植用ドロップに移す。


3 移植用キャピラリーに、2~3mm間隔で空気と培養液の相を交互に充填後、少量の培養液とともに10個の胚を吸引する。


*流動パラフィンで被覆された培養液のドロップから移植用ドロップに胚を移したときに、ドロップ表面に流動パラフィンが付着する(下図)ので、その部分を避けて移植用キャピラリーへ胚を吸引する。流動パラフィンは胚の着床を阻害し、移植率を低下させるので注意する。





胚移植

1 膨大部から卵管采に向かって、1番目と2番目のカーブの間(場合によっては2番目と3番目のカーブの間)の卵管を、卵管切開用のノエス剪刀で切開する(卵管の円周の、約1/2~2/3程度を切開する)。


2 切開部から卵管膨大部に向かって、胚を含むキャピラリーを挿入する。


3 マイクロピンセットでキャピラリーの挿入部位の卵管を外側から軽く押さえ、膨大部に空気の泡が2~3個入るまでマウスピースから静かに息を吹き込む。
*キャピラリー先端が、卵管内で卵管壁にぶつかっていると、マウスピースから息を吹き込んでも、卵管へ胚を移植できないケースがある。この場合、息を吹き込みながらキャピラリーを少し手前に引くと、容易に胚移植を行うことが可能である。


[卵管への胚移植]


4 クレンメを外し、卵巣・卵管・子宮を静かに体内に戻す。
5 切開した皮膚をオートクリップで止める。



6 反対側の卵管へも、同様の操作手順で胚を移植する。
7 ヒーター(37°C)の上にマウスをうつぶせに寝かせ、麻酔から覚醒するまで保温する。


参考文献

  1. Nakagata N. 1992. Embryo transfer through the wall of the fallopian tube in mice. Exp. Anim. 41: 387-388.
  2. Champlin AK., Dorr DL., and Gates AH. 1973. Determining the stage of the estrous cycle in the mouse by the appearance of the vagina. Biol Reprod. 8(4): 491-494.


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